東京高等裁判所 昭和26年(う)3814号 判決
被告人に対する賍物故買の公訴事実の訴因が特定されているかどうかを考えると、昭和二十五年十二月二十八日午後十時頃以降昭和二十六年五月一日に至る間、八回に亘る被告人の賍物故買の日時、場所、故買物件、相手方は、個別的に明確であるが、只その買受代金については合計額が六千四百円であることを知ることができるのみで、個々の取引代金額が明らかにされていないに過ぎないものということになるのである。しかし賍物の故買とは、賍物の有償収得をいうに外ならないのであるから、被告人が右のように原審相被告人木村俊雄等から八回に亘り代金六千四百円で賍物を買受けたことが明らかに記載されている以上、その賍物の収得が有償収得であることを示したものであつて、既に賍物故買の事実が日時、場所、故買物件、相手方について個別的に明らかにされ、しかもそれがいずれも有償収得であると記載されているものとすれば個別的に取引代金額が特定されていないとしても、特定された日時、場所等と相俟つて他の訴因と識別することができる程度に達しているものと認められるから、被告人の各個の賍物故買の訴因は特定しているものといわねばならないのである。しからば、被告人に対する本件起訴状中の賍物故買の公訴事実の記載は訴因を特定しないものとして、公訴を棄却した原判決は、刑事訴訟法第二百五十六条の適用を誤り不法に公訴を棄却したもので論旨は理由がある。